著者の河合隼雄さんは言わずと知れた心理療法家。
ご自身はそれほどものすごく本を読むタイプではないとおっしゃっているけれども、なんのなんの、児童書から古典、小説に至るまで、幅広く本を読まれている。
これまで読まれた本をテーマ別に紹介する講演の記録を元にして作られた本なので、話し言葉で書かれているせいか、とてもなじみやすい。
ほんとうに話しかけられているようで読みやすい本になっている。
これなら、読書が苦手という方でも読みやすいのではないかと思う。
■心とは何か
そして、単に本を紹介するというよりも、「こころとはなにか」という問いと絡めて話をしている。
まさにこれこそが、生きた心理学だと思う。
たとえばカフカの『変身』。
朝起きたら、気持ちの悪い虫になっていた、という話でご存知の方も多いと思うが、これを心理療法家が読み解くと、こういう解釈になるのかあと、とても新鮮な気持ちになった。
ひきこもりや家庭内暴力と結びつけるかあ。
心に問題を抱えた状態、統合失調症など、”それ”と評しているのも面白いなあと。
改めて、読み直してみようかと思った。
以下、掲載例である。
読んだことがあるものもあれば、タイトルは知っているけどしっかりと読んだことがないものもある。
1 私と”それ”
ドストエフスキー 『二重身』
カフカ 『変身』
フィリパ・ピアス 『トムは真夜中の庭で』 など
2 心の深み
村上春樹 『アフターダーク』
遠藤周作 『スキャンダル』
吉本ばなな 『ハゴロモ』 など
3 うちなる異性
夏目漱石 『それから』
シェイクスピア 『ロミオとジュリエット』
ルーマー・ゴッデン 『ねずみ女房』 など
4 心ーおのれを超えるもの
ホワイト 『シャーロットのおくりもの』
ユング 『ユング自伝ー思い出・夢・思想』
大江健三郎 『人生の親戚』 など
時折関西弁の混じる柔らかい口調で、思わずクスッと笑ってしまうようなジョークも交えながら各作品の”読み応え”ポイントを解説されている。
■読書は心の栄養素
本を読むということは、単に知識を得るということだけではない。
自分の持っている世界を広げ、1度の人生では経験しきれないような体験ができる、それが本の持つチカラなのである。
人の心の内側、心の動きを書いた良書はたくさんあるから、それを読むことで、難しい知識を詰め込んだ心理学の本を読む以上の体験ができるのではないかと思う。
単に専門書、学術書を読む以上の”こころの理解”の方法を河合先生独特の語り口で様々な作品を通して教えてくれている。
この解説を参考に読み直してみたら、人の心の奥深さを直感的・実感的にわかるようになるのではないか。
読書なんて、つまらないし苦手だ、という人にほどこの本を読んでみてほしい。
本を読むということの楽しさまで伝えてくれている良書である。