タイムリープをして、良い方向に未来を変えていく話かと思いきや、全然想定していなかった方向に変わってしまい、混乱する主人公。父を救うためにしたことが、さらに悪い事態を引き起こしてしまうなんて…これってバッドエンドなのか?と途中で不安になりましたが、なんとか良い方向へ。最後まで諦めない主人公に思わず感情移入してしまいます。
単なる冤罪を晴らす物語かと思わせておいて、その裏にはこんな事件が隠されているなんて。
タイムリープものは宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」が好きなのですが、この話は何度も現代と過去を行ったり来たりする、ちょっと変わった趣向でした。
主人公は裁判所で書記官をしています。ある日、法廷を出たところで意識を失い、気がついたら5年前にタイムリープしていました。
2回目のタイムリープで、過去に戻るきっかけや過去に滞在できる時間が限られていることに気づくのですが、事件が思わぬ方向に変わってしまったことから、何をどうすればみんなが幸せになれる方向へ過去を変えることができるのか、本当に頭を悩ませます。
さて、ここで考えたいのが、自分だったらどうするか。
最初のタイムリープは、父の裁判の傍聴席でした。父と呼べるほど一緒に過ごした記憶もない人。しかも、義理の娘への性犯罪で起訴されています。小さい頃に自分を捨てた父親ですから、顔すら覚えていないのです。
そんな人を、救おうと思えるか。
主人公がそのまま放っておくことはできなかったのは、主人公が法に関わる仕事をしていたからでしょうか、それとも自分のアイデンティティのためだったのでしょうか。
仕事の流れで「もしかしたら冤罪なのでは?」と疑念を持つようになりますが、それを解決するための時間はとても限られています。さて、どうすればみんなが幸せになれる結末に運命を変えられるのか。
性犯罪事件が冤罪だった、事件の真相は?というサスペンスとして読んでももちろん面白いのですが、そこにタイムリープがからんでくるので、スピード感が半端ない。焦る。あと何回タイムリープできるんだろう。本当に、流れを変えられるんだろうか。ドキドキしながら読みました。
ハッピーエンドになるんだろうかというドキドキ。頼むから、みんなが不幸になる結末だけは避けてほしい。でも、冤罪だと分かったとしても、いったんは拘束された時間であるとか、犯罪者だというレッテルを貼られたことは取り返しがつかないでしょう。時間は戻ってこない。
人が人を裁くということは本当に難しいのだと思いました。頭がいい裁判官なら正しい判断ができるとは限らない。人間ですから間違いを犯すことだってあるわけで、そんなときに誰が間違いを正してくれるのでしょうか。今回のタイムリープのように、神様のいたずらでもないと難しいと思いますが、でもそもそも神様がいたなら、なぜ冤罪なんてことが起こるのかもわからない。
ああ、深い。とても深い作品ですよ。
とても読み応えがあって、最後まで一気に読んでしまいました。ミステリーとしても、裁判の話としても面白く読むことができました。