この人はすごい。
なんてすごい人なんだろう。
泣かせようとしているわけではない。
誰もが持っている大事な日常を丁寧に描いている。だからこそ、それが失われることがどれほど辛いのかってことが胸に迫ってくるんだと思う。
ねえ、今日っていう日は本当に大事だよ!今日を精一杯生きないとダメだよ!
そんなことを大声で叫びたくなりました。
今生きてることって、すごいことなんだよ。生きてることが奇跡。だから、今を大事に生きていこう。
いつもそう思ってるんだけど、読んだ後に、改めてそんな風に思える作品でした。
ざっとあらすじ
それぞれの話が独立しているようで、どこかでつながってくるところがあるので、最初から続けて読んだ方がいいです。
<収録作>
- ひこうき雲
- 朝日のあたる場所
- 潮騒
- ヒア・カムズ・ザ・サン
- その日のまえに
- その日
- その日のあとで
ひこうき雲
主人公は小学生。「ガンリュウ」というあだ名の、みんなから嫌われているクラスの女の子が突然入院する。何の病気だかは分からないけど、かなり重いらしい。
みんなで寄せ書きを書くことになったが、そこに描かれた鳩の意味とは・・・。
まだ「死」ということの意味が本当の意味では分かっていない小学生という年齢。子供は意図せず残酷なことをする。
朝日のあたる場所
シングルマザーで高校教師のぷくさんは、娘の失笑を買いながらも、今日も朝のジョギングに励んでいる。
ジョギングの途中で偶然かつての教え子と再会し、別の教え子が偶然にも自分と同じマンションに住んでいることを知る。
その子がある日突然ぷくさんの部屋を訪ねてくる。「昔万引きしたことを絶対に主人にいわないでほしい」と。彼女は今、どんな暮らしをしているのか。ぷくさんの心配はつきないが・・・。
潮騒
がんで余命宣告を受け、なぜかふと昔住んでいた街を訪ねたくなった男の話。転校生で数年しかその小学校にはいなかったのに。
そこで昔の同級生が経営しているドラッグストアに足を向ける。彼が小学生の頃、地元の人が来るだけの小さな海水浴場で同級生が死亡した。そのことで喧嘩をした二人だったが、大人になった今ではもちろんその頃のわだかまりなどなくなっている。昔話に話を咲かせるが・・・。
ヒア・カムズ・ザ・サン
駅前で歌を歌うストリートミュージシャンにすっかり惚れ込んでしまった母。しかし、母は健康上の問題を息子に隠している。自分の口でいうことなく、なぜかそのストリートミュージシャンから息子に伝わるようにしていて・・・。
その日のまえに
それはただの思い出作りではなかった。癌で余命宣告を受けた妻とその夫が、新婚の頃住んでいた街を訪ねる。明日からは辛い治療が始まる。
その日
ついにその日がやってきた。もう時間がないと思った夫は、妻との約束を破って息子達を病院に連れて行くがもうすでに意識はなく・・・
その日のあとで
なかなか母がいない日常に慣れることが出来ない息子達。それでも時は流れていく。
妻が看護師に託した最後の手紙に書いてあった言葉は・・・。
ある日突然途切れる日常
このまま、これからあと何十年も続くと思っていた日常が突然途切れてしまう。そして「その日」は静かに、突然、あっけなくやってくる。
だれにいつやってくるのかはわからない。どうして私なんだろう。どうして我が家なんだろうと。
これは死を通して今の生き方、そしてこれからどう生きていくのかということを考えていく作品だと思う。
本当ならば病気にならなくたって余命なんて誰にもわからないのに、人は明日の命もわからないのに、それでもずっとこの平凡な日が続いていくと信じて疑わない。
私もそうだ。
人の死なんて、どこか他人事だと思っている。明日だって当たり前の朝がやって来ると思っている。
それこそ、日常の尊さを忘れてるってことなんだろうな。
なんだろう。人の死について書いた作品なんて、これまでたくさん読んだ。涙が出てくるものもあった。
でも、これほど号泣した作品は初めてだったのです。もう、涙が止まらない。どの章を読んでも。
最後の3つはもう人前で読んではいけないレベルですけれども、他の章もどれも涙が止まりませんでした。
私が人生経験を重ねたことと、子どもが増えて、以前にも増して家族の、そして日常の大切さが身に沁みているからこそ、それを改めて突きつけられて涙が止まらなくなったのかなと思いました。
ありきたりの毎日がつまらないなんていってる人、ありきたりの毎日がどれほどありがたく、普通に生きていけることがどれほど素晴らしいことなのか、もう一度考えてみるといいと思います。